やすぴか日記

日常の出来事と過去の思い出の記録

大学時代の下宿のお風呂はリスキーだった

 40年前、大学時代に京都で一人暮らしをしていたアパートの話である。アパートといっても、大家さん家族の家と建物がつながっている、いわゆる「下宿」である。学生用の玄関で靴を脱いであがり、右側に行くと大家さんの家で、左側には廊下が続いていて、学生の部屋が両側に5つずつある。2階建てのため全部で20部屋だ。私は1階の奥から2番めの部屋に住んでいた。

 下宿はもともと、その家のおじいさんが始めたもので、その関係で下宿の世話はおばあさんがやっていた。大家さん家族は、その他におそらく息子夫婦と小学生の娘と息子がいた。おそらくというのは、4年間住んでいる間に旦那の姿は一度も見たことがなかったからだ。

 アパートの共同の場所は、原則その家族は使っていなかったと思うが、おじいさんだけは毎日共同のお風呂に入っていた。学生が入れる時間帯は、たしか18時〜22時で意外と短く、遅く帰ったりすると入りそびれることもある。入る場合は、風呂の入り口の前に各自の洗面器を順番に並べて置き、自分の順番を覚えておく。風呂から上がったら、「お風呂が空きましたので、次の方どうぞ」とマイクで呼ぶルールだ。

 自分の順番が来たら入るのだが、順番も覚えておかなければならないし、マイクで呼ばれた順番も数えながら聞いていなければならないので、気が休まらない。わからなくなると、たまにお風呂の前まで行って、自分の順番を確認しにいくこともある。呼び出しを聞き逃したり、順番を勘違いしたりする人がいると、誰も入っていない時間が続き、後の人は時間内に入れなくなったこともある。

 そんなリスキーなお風呂なのだが、よりによって、おじいさんは学生が入る時間帯に自分も洗面器を並べる。しかも入っている時間も長い。それだけならまだ良いのだが、おじいさんは耳が遠いため、順番が呼ばれても気がつかずに一向に入らない。誰も入っていない時間が過ぎて、おばあさんが気がついて、おじいさんに「早く入りぃ〜」と大声でよく怒鳴っていた。

 そして、おじいさんはお風呂を出ると、マイクで呼び出すのだが、スイッチを入れた後、マイクを引きずるような「ゴゴゴゴゴー!」と急に大きな音がする。耳が遠いため自分の声の音量がかわらないのか、それともマイクに近づきすぎなのか、「ふ〜ん!」と鼻息の後、大きくカタコトのような声で「オフロ、ツギノカタ、ハイテクダサイ、ツギノカタ、ドウゾ」と2回繰り返す。そして「ゴゴゴゴゴー!」という音の後、「ブチッ!」と切れる。

 別にバカにしているのではなく、突然の音と声にいつもびっくりしていたのだ。しかし、そのうちに慣れてきて、「ゴゴゴゴゴー」と音がすると、「来た!」と身構えることができるようになった。

 当時のことなので仕方がないと思うが、お風呂のシステムは他にいい方法はあったのではないだろうか。少なくとも、おじいさんが入る時間は、18時より前にしてくれればよいのにと、いつも思っていたのであった。