やすぴか日記

日常の出来事と過去の思い出の記録

「世界のインフレの謎」は解明したが、私たちの生活はどうするの?

 「世界インフレの謎」渡辺 努(講談社現代新書)を読んだ。今、世界で加速しているインフレの原因は、ウクライナ戦争ではなく、それ以前から始まっていた。それは新型コロナウイルスによるパンデミック後の、人々の「行動変容」が原因であるという。

 第1に、消費者のステイホームにより、サービス消費からモノの消費にシフトした。第2に、労働者は早期退職をしたり、パンデミック後も離職したまま仕事に復帰しなくなった。第3に、物流の停滞により世界中に張りめぐらされていた供給網が寸断された。これらの3つの「行動変容」による供給不足で商品価格が高騰し、世界インフレがおきた。世界にインフレがなぜ起きているかを非常にわかりやすく説明されている良書であった。

 問題は、日本だけが世界とはまったく違い、四半世紀にわたり商品の値段がまったく動かないと同時に賃金も上がらない、慢性デフレになっていることだ。日銀は異次元緩和を続けていたが、なかなか効果が出ていない。しかし、ここにきて世界インフレが日本に流入したことにより、エネルギー関連製品や輸入品の値上がりによる急性インフレがおこり、価格への転嫁が始まっている。

 1/23に開会した通常国会で、首相は施政方針演説を行った。その中の経済政策で、「物価上昇を超える賃上げ」を労使に求めた。連合も経団連も、この春闘で賃上げに前向きな姿勢を示している。ある企業では6%の賃上げ目標などと言っている。

 しかし、結局賃上げできるのは体力のある大企業だけであり、しかも能力給への移行が顕著になって、一部の人が恩恵を受けるだけような気がする。大企業の大多数と中小企業の労働者は賃金が上がらず、格差が開いていくだけにならないか心配だ。

 案の定、朝日新聞世論調査でも、首相の「経済政策」に「期待できない」と答えた人は73%だったそうだ。著者は、日本の消費者のインフレ予想が上がってきていると言うが、このアンケートを見ると、実態はまだまだのようである。

 社会の人々が共有する相場観(ノルム)が、「価格も賃金も動かない」から「価格も賃金も上昇する」へ変わり、毎年2%程度の賃金上昇を伴う、理想のインフレ状態に本当になるのだろうか。我々庶民は、インフレの理屈がわかっても、理想を語られてもしょうがない。目の前の生活が大事である。

 どうせ経済学者でも解決方法がわからないのであれば、世界の動きとも、既存の経済理論とも関係ない、日本独自の新しい資本主義を、お題目だけで終わらないようにしていただきたいと、庶民は思うのであった。