「同士少女よ敵を撃て」逢坂 冬馬(早川書房)は、昨年ベストセラーになった大作である。著者のデビュー作にもかかわらず、「第11回アガサ・クリスティー賞」大賞受賞、「2022年本屋大賞」大賞受賞、「第166回直木賞」候補など、評価の高い作品だったので読んでみた。
昨年ロシアがウクライナに侵攻したことで、多くの人が関心を持ったこともあろうが、実際に読んでみると、緊迫した戦闘シーンやストーリー展開、登場人物の心の動きなど、読み応えがあり、どんどん読み進められて、理屈抜きにおもしろく、ベストセラーの理由がわかった。
第二次世界大戦の独ソ戦のときは、ソ連には実際に女性狙撃手がいたとのこと。故郷を奪われた主人公のセラフィマが、仇を撃つためにソ連の女性狙撃手になり、戦争に巻き込まれていく。上官や同士と行動を共にする中で起こる理不尽な出来事や、実戦での狙撃経験、緊張と恐怖、出会いと別れなどを通じて、気持ちが変化していき、本当の敵が何かに気づく。
戦争の悲惨さ、極限状態におかれた人の気持ちの変化、女性差別など、様々なテーマが盛り込まれているが、小説は面白ければ良い。個人的には、メインとなる3箇所の戦場での戦闘シーンが読み応えがあった。
1つ目は、主人公のセラフィマが初めての実戦を経験する「ウラヌス作戦」。戦闘中に、同士の狙撃の名手が殺され、戦争の恐怖と理不尽さを目の当たりにする。
2つ目は、市街地のアパートに籠城して防衛する「スターリングラード攻防戦」。防衛隊の支援のため、セラフィマのいる狙撃隊が合流し、一緒に籠城して戦う。動の戦闘場面よりも静の場面が多く、緊迫したシーンが続く。籠城するアパートの中で味方同士が一緒にいることによる気持ちの変化が、見事に表現されている。
3つ目は、セラフィマが仇を撃つため、単身乗り込んで敵と相対する「ケーニヒスベルグ接近戦」。ついに宿敵を撃ち取るが、最終的にセラフィマが撃った本当の敵とは何だったのか。最後に衝撃の結末が待っている。
ウクライナ戦争では、もちろんウクライナの被害者はたくさんいるが、それぞれの兵士たちも命をかけている。何のために命をかけて戦うのか。一部の権力者のエゴに対して、命をかけるほどの値打ちがあるのか。過ちを繰り返してほしくない。戦争は小説の中だけで十分だ。
戦争は100%反対するが、この小説は100%おすすめのエンターテインメントだ。